マルタ政府は2025年8月1日より、新たな「Labour Migration Policy(労働移民政策)」を導入することを正式に発表しました。今回のマルタ就労ビザ(ワークパーミット)改正は、外国人労働者の雇用制度を見直し、マルタの労働市場をより健全で透明なものにすることを目的としています。
この政策には32項目にわたる改革が含まれており、段階的に2026年7月までに完全実施される予定です。背景には、近年の外国人労働者急増による雇用調整の難航や、雇用条件の不透明さへの懸念があります。新制度では、労働者保護と人材の質向上を両立させるため、雇用主と労働者双方に新しいルールが適用されます。
マルタ就労ビザ(ワークパーミット)主な変更点の比較表
主なマルタの就労ビザ変更点の比較表は以下の通りになります。
項目 | 改正前(旧制度) | 改正後(2025年8月以降) |
---|---|---|
初回申請料 | 約€300 | €600に引き上げ |
更新料 | €300前後 | 年額€150に統一 |
雇用主変更時の手数料 | 不明確 | €600 |
職務変更時 | 個別対応 | €300の手数料を設定 |
求人広告義務 | 任意、条件緩和 | 全企業に実施を義務化(一般職3週間、高度職2週間) |
求人掲載先 | Jobsplusなど任意 | JobsplusおよびEURESへの掲載が必須(10月以降) |
解雇後の猶予期間 | 約10日 | 30日間に拡大(資力証明で最大60日) |
高度職の最低年収 | KEI:€35,000 / SEI:€25,000 | KEI:€45,000 / SEI:€30,000に引き上げ |
給与支払い方法 | 現金も可 | 銀行振込など電子決済(10月以降) |
雇用主制限 | 特に制限なし | 企業規模別に外国人採用上限を設定 |
非就労ビザからの申請 | 一部可 | 原則不可(特例あり) |
障がい者雇用 | 義務なし | 従業員の2%以上を障がい者とする義務 |
再雇用制限 | 不明確 | 過去12ヶ月以内の解雇職務への再採用を制限 |
改正による手続きの変化
新制度では、第三国出身の労働者(TCN)を採用する際に、雇用主が国内およびEU市場での採用可能性を事前に確認する義務が導入されます。求人広告は最低2〜3週間掲載しなければならず、JobsplusやEURESポータルへの登録が必須となります。これにより、国内人材を優先する仕組みが強化される形です。
また、解雇された労働者には30日の滞在猶予期間が与えられるようになり、一定の資金証明を提出すればさらに30日の延長が認められます。これにより、雇用が途切れた場合でも短期間での再就職が可能になります。
給与面では、KEIやSEIといった高技能職の最低年収が引き上げられ、今後はより高い専門性を求める傾向が明確化しています。特にITや金融、ヘルスケア業界ではこの基準が採用条件に影響すると予想されています。
マルタ就労ビザの手数料・待ち時間の変更点
新しい制度では、申請手数料が全体的に引き上げられました。初回申請時の費用は€600、職場変更時も同額の€600、職務変更(Designation Change)の場合は€300となります。更新料は年額€150に統一され、長期雇用を促す設計です。
審査期間については、政府が処理の迅速化を掲げているものの、初期段階では制度移行による混雑が見込まれます。求人広告の提出確認や、税務・労務データの照合など、審査工程が増えるため、実際の処理時間は平均で6〜8週間程度になると予想されています。
雇用主への新たな義務と影響
雇用主には、以下のような新しい義務が課せられます。
- 国内およびEU市場での求人広告掲載義務
- 過去12ヶ月以内に解雇した職務への再採用制限
- 企業規模に応じた外国人雇用上限の設定
- 離職率や解雇率のモニタリング
- 給与支払いを電子化(現金禁止)
これらの規定により、外国人労働者の雇用コストや手続き負担は増加します。一方で、労働者の権利保護や透明性が高まり、不正雇用の抑止にもつながると見られています。政府は今後、雇用主の離職率データを参照し、異常値を示す企業に対してはTCN採用の制限を設ける方針です。
労働者にとってのメリットと注意点
今回の改正で注目されるのは、労働者保護が強化された点です。解雇後の猶予期間の延長や更新時チェックの明文化は、労働者にとって安定した環境を提供する仕組みです。また、給与の電子化や雇用契約書類の監査強化により、賃金未払いなどのトラブル防止にもつながります。
一方で、高度職種の給与基準引き上げにより、スキル証明や実務経験がより重視される傾向となります。専門分野でのキャリアアップを目指す人にとってはチャンスですが、未経験者や短期雇用希望者にとっては条件が厳しくなる可能性もあります。
今後のスケジュールと展望
マルタ政府は2025年8月から順次新制度を導入し、10月には求人掲載や給与電子化義務を追加、2026年7月までに全32項目を完全施行する予定です。改正の目的は、マルタを「高品質な労働市場」として維持しながら、持続可能な外国人雇用システムを構築することにあります。
今後は、雇用主の法令遵守体制や労働者のスキル基準がより厳格に管理され、短期的な雇用を目的としたビザ取得は難しくなる見通しです。その一方で、適正な条件で働く労働者には、長期的な在留や更新のチャンスが広がると考えられます。
まとめ
2025年8月から施行されるマルタの就労ビザ(ワークパーミット)改正は、制度の透明化と労働市場の健全化を目的とした大きな転換点です。初回申請料の引き上げや求人広告義務化など、雇用主にとっては手続き負担が増える一方、労働者にとっては権利保護が強化される内容となっています。これまでよりも時間とコストがかかる制度になりますが、正規の手続きと適切な契約を重視することで、より安定した就労環境を築くことができるでしょう。
コメント